2007/6/25 -- 秋山英宏のテニス・ツアー潜入記
グランドスラム達成ならず。しかし“扉はまだ開かれている”
【フレンチオープン男子シングルス決勝】ロジャー・フェデラーの本質は、そのリズムにある。一撃必殺のフォアやサービスはあるが、それはフェデラーが持っている引き出しの一つにすぎない。堅実なサービスと破壊力のあるフォアハンド、地面を滑るバックハンドスライスで攻撃のリズムを作る。相手はそのリズムの奔流に飲み込まれ、防戦一方になる。こうなったら、もう、乾坤一擲のウイニングショットは必要ない。筆でひと掃きしたような柔らかいショットでとどめを刺すだけだ。天才コンダクターのフェデラーは、魔法の杖を振るだけで、いつでもどこでも、このリズムを作り出せるのだ。
しかし、唯一レッドクレーの上では、このリズムを作るのに難渋する。いや、〈ラファエル・ナダルを相手にしたときだけは〉と、より条件を限定した方が正確だろう。今年のローランギャロスでも、マエストロは苦しんだ。
生涯グランドスラムをかけるフェデラーと、全仏3連覇を目指すナダル。ローランギャロスでは2年連続の決勝対決だった。第1セット、フェデラーは何度もサービスブレークのチャンスを握る。しかし、この1本が遠かった。フェデラーの魔法の杖がナダルには効かないのだ。
序盤は、フェデラーのバックハンド対(左利きの)ナダルのフォアハンドのラリーが多かった。フェデラーも決してバックハンドが苦手というわけではない。この試合ではスライスの割合を減らし、トップスピンを多用した。フラット系のクロスコートに角度のあるショートクロスを交ぜ、ナダルのフォアに対抗した。ときおり放つダウンザラインも美しかった。しかし、これはフェデラーが望んだ展開ではない。ナダルは試合後、「最初は相手のバックハンドにボールを集めた」と打ち明けた。つまりフェデラーは、このラリーを強いられていたのだ。
常に相手を支配下に置いてプレーするフェデラーにとって、こうした展開が居心地の良いものであるはずがない。ラリーで優位に立ち、あとはフォアで仕留めるだけなのに、力んでネットに掛ける場面も何度かあった。フェデラーは滅多にこういうミスをしない選手だ。だが、自分のリズムでプレーできない違和感が力みにつながり、イージーミスを招いたのだろう。
「何度もチャンスがあったが、ものにできなかった。フォアハンドで押していくことができなかった」とフェデラーは悔やむ。ショットが小気味よいリズムを刻み始めても、それが長く続かなかった。一つのショットが次のショットを導き出す「流れ」が出てこなかった。ナダルがフェデラーのリズムを打ち壊してしまうのだ。フェデラーは「ブレークポイントのラファエルは粘り強かった。彼はクレーで最もタフな選手だ」とナダルの強さを素直に認めた。
四大大会4連勝、そして生涯グランドスラム達成の夢は、またしてもレッドクレーの上でついえた。オールラウンドプレーヤーのフェデラーにしても、やはりローランギャロスは鬼門なのか。
この疑問に、フェデラーは明確に答える。「優勝のチャンスが減っているとは少しも思っていない。ここ数年、全仏ではいいプレーができている。このタイトルを取る自信はある。ドアはまだ開かれているんだ。そのときが後になればなるほど、達成できたときの喜びは大きいと思う」。ナダルという壁は厚いが、乗り越えられると信じている。だからフェデラーは笑顔でこう語るのだ。
「もし今年勝っていたら、テニス人生の目標が一つ減ってしまうからね」
投稿者: フリーライター 秋山 英宏 日時: 2007年06月25日 15:56|パーマリンク|コメント: 0 »コメントを送る…