2008/2/24 -- 秋山英宏のテニス・ツアー潜入記
ジョコビッチとソンガ、新世代からの一撃
【2008全豪オープン総括】
準決勝でロジャー・フェデラー(スイス)を倒したノバク・ジョコビッチ(セルビア)は「物事があまりにも早く進んでいく」と当惑の表情を浮かべた。「いつか必ず」と夢に見た、四大大会での打倒フェデラー。だが、その日がこんなに早くやってくるとは当人も思っていなかったのだろう。しかも、2日後の決勝でジョコビッチはジョー・ウィルフリード・ソンガ(フランス)を破り、初めて四大大会の頂点に立ったのだ。
ジョコビッチのことは、“有望な若手”として何度も記事にしてきたが、まさかこんなに早くグランドスラムを制するとは思っていなかった。なぜなら、テニス界にはフェデラーとラファエル・ナダル(スペイン)というツインピークスがそびえ立っていたからだ。二人の王者は、グランドスラムでは過去11大会すべて二人でタイトルを分け合ってきた。ところが、この全豪オープンでは20歳のジョコビッチがフェデラーを破り、22歳のソンガがナダルを打ち負かした。メディアには堰を切ったように「世代交代」の文字が踊り始めた。「物事があまりにも早く進んでいく」という感慨は、ジョコビッチ一人のものではない。
テニスそのものの進化も加速している。ジョコビッチとソンガが見せたのは、まさにアスリートのテニスだった。陸上の十種競技と総合格闘技を合わせたような、と言ったら、かえって分かりにくいだろうか。恵まれた身体能力を生かし、闘争心を前面に出して戦う。その戦いぶりは、しみったれた駆け引きや姑息な戦術とは無縁だった。ジョコビッチは、相手の強烈なショットに2割増しのカウンターパンチで応酬した。188センチの身体が備えたスピードと強靱さ、バランスが、信じられないようなコートカバーリングを可能にし、カウンターショットの質を前代未聞の領域に押し上げた。
ソンガは強烈なフォアハンドとサービスで、この大会の最大のサプライズとなった。ニックネームは「アリ」。彼の風貌を目にした人には、由来の説明は不要だろう。現地オーストラリアの新聞は「蝶のように舞い、蜂のように刺す」と、お決まりのフレーズを大見出しに使った(それもどうかと思うけれど)。確かに、フォアハンドのハードヒットで相手を追い込み、フェザータッチのドロップボレーでとどめを刺すところなどは、本家アリのボクシングのようにエレガントだった。そんな洗練されたプレーと外見の無骨さとのギャップ、ときおり見せる笑顔の明るさで、ソンガはオーストラリアのファンを味方にした。ATP9位のアンディ・マリー(英国)、8位のリシャール・ガスケ(フランス)、そして2位のナダルとトップ10選手を連覇しての準優勝は見事だった。
この全豪は、ジョコビッチ~ソンガ世代が王者フェデラーに初めて一撃を加えたトーナメントとして、また、フェデラー王朝が初めて揺らいだ大会として、テニスファンの記憶に残るに違いない。
投稿者: フリーライター 秋山 英宏 日時: 2008年02月24日 16:57|パーマリンク|コメント: 0 »コメントを送る…