2008/2/24 -- 秋山英宏のテニス・ツアー潜入記
フェデラーの脱モンスター宣言
【2008全豪オープンより】
記者会見場に現れたフェデラーは、さばさばした表情だった。落胆はしていたに違いない。準決勝でノバク・ジョコビッチ(セルビア)に完敗。05年のウィンブルドンから10大会連続で四大大会の決勝に進出していたが、この記録も途切れた。また、優勝すれば通算13個目のグランドスラムタイトルとなり、ピート・サンプラスが持つ最多記録(14回)に王手がかかるところだった。そうした数字以上に、王者のプライドとして、決勝を前に敗退することは受け入れがたい事実だったと思う。それでもフェデラーは、記者の質問に一つ一つ丁寧に答えていった。
この日のプレーに関しては「満足しているとは言わないが、かなりいい方の部類だったと思う」。フェデラーは自分のプレーを悔いるよりも、相手を称えた。「彼(ジョコビッチ)が重要なポイントをものしたということだ。僕にツキがなかったところもあるが、彼のプレーがよかったんだ。特に、必要なときに、いいサーブを入れてきた。コートカバーリングも素晴らしかった」
開幕直前に胃腸炎にかかり、練習不足で大会に臨んだが、それを言い訳にはしなかった。
「影響があったかどうかは分からない。でも、もう治っているし、シーズンオフには十分に練習した。まあ、病気の代償を支払ったということにはなるのかもしれないね。でも、相手の功績を認めるべきだろう。僕はすべてを自分のプレーのせいにしようとは思わない。病気のことを考えれば、この結果はまずまずだと思う」
そんなやりとりのあと、フェデラーの口からドキリとするような言葉が飛び出した。
「僕は自分でモンスターを作り上げてしまったんだ。僕はすべてのトーナメントで優勝しなければならないと思い込んでいた。実際、準決勝でも好成績だよね。大会を通じて最高のプレーができたとは思わないよ。でも僕は堅実にプレーできていたし、プレーに問題はなかったと思う。でも、僕は1セット落としただけで、出来がよくなかったと言われるんだ。そんなモンスターを作ってしまったのは、僕自身の失敗かも知れない。そういう状況を変える必要があるのか、よく分析し、考えてみようと思っている」
テニス界の王者の率直な心情吐露、かなり深く自分の内面と向き合ったうえでの言葉だと思う。王者が背負う荷物の重さは、いかばかりか。常に大きな期待を背負い、勝って当たり前と見られる現状、尋常ではない状況をフェデラーは「モンスターを作ってしまった」と表現した。そして、そうした状況ができあがってしまったことを(周囲のせいにするのではなく)、自分の過ちだったと言うのだ。
プライドはプライドとして、しかし、モンスターとしてではなく一人の人間として試合に臨もうという、フェデラーの決意表明である。王者が自分に肩の荷を下ろすことを許した、とも受け取れる。フェデラーは、その重圧から完全には逃れられないことも知っている。しかし、モンスターの仮面を脱ぎ捨て、その呪縛から解き放たれたとき、フェデラーは再び無敵の王者としてテニスコートに戻ってくるだろう。
投稿者: フリーライター 秋山 英宏 日時: 2008年02月24日 19:00|パーマリンク|コメント: 0 »コメントを送る…