2008/7/29 -- 秋山英宏のテニス・ツアー潜入記
フェデラー痛恨の敗戦
【2008年ウィンブルドン男子シングルス決勝】ロジャー・フェデラーにとっては痛恨の敗戦。しかし、素晴らしいドラマだった。王者フェデラーの意地、挑戦者ラファエル・ナダルの執念がぶつかり合った。舞台はテニスの聖地ウィンブルドン。しかもフェデラーの6連覇のかかる大一番。舞台も役者も完璧なら、試合内容も申し分なかった。まさに歴史的な一戦だった。
両者のレベルは、これまでの男子テニスが足を踏み入れたことのない領域に達していた。2人の動きが、ボールのやりとりが、ただただ美しかった。どの一瞬を切り取っても絵になる試合、スペクタクルなシーンの連続だった。
試合展開をここで振り返るつもりはない。内容の分析も、まあ、いいだろう。それよりも、われわれの最大の関心事はフェデラーの今後である。
ローランギャロス決勝での一方的な敗戦。そして、牙城とも言えるウィンブルドンでの敗戦。フェデラーは、特にウィンブルドンでの敗戦に大きなショックを受けている様子だ。ランキング1位の座も危うくなってきた。1位の座から滑り落ちることが、傷心のフェデラーへの“決定打”にならないとも限らない。プライドが砕かれ、モチベーションが希薄になったとしたら、フェデラー王朝は一気に崩壊へと向かう。
1981年、6連覇を懸けたウィンブルドンでジョン・マッケンローに敗れ、その後、にわかにモチベーションを失っていったビヨン・ボルグの後ろ姿をわれわれは目撃している。まさかとは思うが、「6連覇」という数字の符合も妙に気にかかる。「北京五輪とUSオープンで優勝できるように頑張って、いい形でシーズンを終えたい」と話すフェデラーだが、彼とナダルの今の状態を見る限り、フェデラーが一気に巻き返す可能性は高いとは言えない。
フェデラーは終わったのか、という論調の記事も目立ち始めたが、私はそうは思わない。テニスの総合力なら、フェデラーはいまだナンバーワンの地位にいる。ローランギャロスとウィンブルドンではナダルの体力と精神力に屈したが、フェデラー自身のテニスが後退しているとは思わない。
考えてみれば、彼は8月でやっと27歳になる若者なのだ。技術面はともかく、メンタル面や戦術面では、まだ“のびしろ”がある。大きな壁に当たることもなく世界の頂点に上り詰め、史上最強の王者と称されるフェデラーだが、これまでが順調すぎたとも言える。長い目で見れば、初めてぶち当たった壁は、次の飛躍へのきっかけとなるかもしれない。
ボルグとは別の、偉大なチャンピオンを私は思い出す。アンドレ・アガシだ。95年4月に初めてランキング1位の座についたアガシだが、その後、モチベーションが低下し、97年11月には141位までランキングが下降した。ところが、アガシは「お昼寝の時間は終わった」の名言とともに再スタートを切った。そして、格下のチャレンジャー大会から挑戦を始め、99年以降、グランドスラム5大会に優勝するなど再び世界の頂点に立ったのだ。
アガシの「お昼寝」も27歳の時だった。その危機を乗り越えたアガシは、36歳まで現役を続け、すべてのテニスファンに祝福されながら、06年USオープンでテニス人生を終えた。斬新なファッションと攻撃的なテニスで若者の人気を集めたのは第1章のアガシだったが、より多くの栄冠を掲げ、より多くの尊敬を集めたのは第2章のアガシだった。
フェデラーには、ボルグではなくアガシの足跡をたどってほしい。伝染性単格球症の影響で今季は体調もベストではない。今しばらくの停滞は仕方のないところだろう。時間はかかってもいいから、心技体をベストの状態に戻してほしい。そして、この痛恨の敗戦を明日への糧に、また、第2章の幕開けの合図としてほしい。
投稿者: フリーライター 秋山 英宏 日時: 2008年07月29日 19:00|パーマリンク|コメント: 0 »コメントを送る…