2009/2/10 -- 秋山英宏のテニス・ツアー潜入記
【09年全豪男子シングルス決勝】「テニスプレーヤーは生涯、勝ち続けることはできない」
4時間23分の死闘が終わった。すでに日付は変わっていた。ロッド・レーバーアリーナはまだ興奮に沸き立っていた。しかし、その余韻にひたる時間はなかった。試合の決着を見届けると、すぐに記者席を離れなければならなかったからだ。プレスセンターに戻り、とりあえずキーボードを叩かなくてはいけない、と思っていた。実は早朝の便でメルボルンを離れることになっていた。フライトまで6時間を切っていた。だが、それは頭の片隅にあっただけだ。今、見てきたものを、とりあえず(断片だけでも)文字の形に残しておくべきだと思ったのだ。
プレスセンターの席に戻り、TVモニターにちらちら目をやりながら作業をしていた。表彰式が始まった。次にモニターに目を移したとき、作業の手が止まってしまった。スピーチを促されたフェデラーだが、涙で言葉にならないのだ。なんとか言葉を絞り出そうとするのだが、とうとうひとことも発することができず、ナダルがあとを引き取った。ナダルのこのときの言葉と態度も素晴らしかったのだが、それは別のところにも書いたし、ここでは触れないことにする。
フェデラーは、嗚咽を漏らしているようだった。激しく動揺している王者の姿を見て、こちらも少し動揺してしまった。どういう原稿を書くべきか、この涙を見て、方向性が定められなくなった。3年前、全豪を制したフェデラーは表彰式で涙を流した。しかしそれは安堵の涙だった。「ゴールは遠かった。勝利が見えてきて『僕は間違っていなかったんだ』と思ったときに、いろいろなことが頭の中を駆けめぐったんだ」。フェデラーは涙の理由をそう説明した。しかし、今度の涙は、ひどく打ちのめされた者の涙だった。
それでも、表彰式のあとに行われた会見では、フェデラーはいつもの冷静な表情を取り戻していた。表彰式での感情の高ぶりについて、彼はこう語った。「負けた瞬間は、がっかりして、ショックで、悲しくて。その気持ちが、突然あふれ出したんだ。問題は、すぐにロッカールームに行けなかったことだよ。表彰式に残らなくてはいけなかったからね。だから、冷たいシャワーを浴びることも、気持ちを落ち着かせることもできなかったんだよ」。
「テニスプレーヤーは生涯、勝ち続けることはできないよね。でも、(昨年の)ウィンブルドンや今回のように接戦で負けるのは余計ツライよ」。強がるでもなく、負け惜しみを言うわけでもなく、王者は率直に、淡々と試合を振り返り、心情を語った。そして、「今でも彼(ナダル)を倒せると思っている?」と尋ねた記者には、こう答えた。
「うん、間違いなく。(次は)4時間半もかけずにね」。
ファイナルセット、最後のサービスゲームに臨むフェデラー
(ロッド・レーバーアリーナの記者席から)
投稿者: フリーライター 秋山 英宏 日時: 2009年02月10日 10:35|パーマリンク|コメント: 0 »コメントを送る…