2009/4/23 -- WilsonTourStringer細谷理の転戦記
「ジャスティーーーン」
ある日、お店の掃除をしていた時あるラケットに目をとめた。そのラケットはウィルソンのK-TOUR 95。そのラケットを前にある選手のことを思い出した。
その選手は錦織選手ではなく、J.エナン。去年、突然引退してしまった女子選手。世界ランク1位のままで現役を退いた。エナンのラケットは過去5,6回張ったことがある。彼女のラケットは女子選手にしては小さく、ヘッドが重い。今や女子選手でも170cm以上は当たり前の時代だが、その中でも彼女は小柄なほう。それなのに片手バックハンドは強力で精密なショットを放っていて、それが彼女の代名詞だった。その彼女について忘れられない思い出がある。
2004年(だったと思う)のUS OPEN、私はエナンのラケットを担当した。彼女は当時世界1位でシードNO.1、優勝候補筆頭だった。順当に勝ち進み、いよいよ4回戦、ベスト8目前でロシアのN.ペトロワと対戦した。センターコートのナイトセッションで行われた試合は予想に反し、ペトロワの強打が炸裂。エナンは押されてファーストセットを失う。セカンドセットになっても流れが変わらず、最初のゲームをいきなりブレイクされる。そして2-4で迎えたエナンのサービスゲーム。ここでも0-40となり、絶体絶命のピンチ。ここでブレイクされれば2-5となりほぼ試合は決まり。私はテレビで見ていて完全にあきらめていた。
その時、観衆からエナンへの激励の拍手と歓声。「ジャスティーン!!」。スタジアムのあっちこっちからの声援に包まれた。テレビに映った彼女は一瞬サービスのタイミングを外す。
そして次の瞬間、彼女は3,4回首を縦に振った。
それを見た私はグッと来てしまった。
気持ちを入れなおしたのだろうか?
「負けられない。私は世界1位なのだから。」
「まだやれる」
「ここからよ」
どのように思ったのかは私にはわからない。でもあんな態度を見せる選手は初めてだった。
その後、彼女は盛り返してキープ。しかし試合はそのままセカンドセット4-6でジ・エンド。
あの行為は何だったのか?
勝つか負けるかしかないテニスのゲームだが、あそこであきらめない気持ちを見せてくれたエナンは偉大なチャンピオンでした。
最後の最後まで戦う姿勢は本当に立派でした。それは称賛と尊敬に価します。
この仕事の醍醐味はこういうところにあるのです。
そして彼女のラケットに携われたことは本当に幸せだと思う。